- 本予告
- 特報
1996年4月28日日曜日。タスマニア島、ポート・アーサーで無差別銃乱射事件が発生。死者35人、負傷者15人。当時28歳の単独犯の動機が不明瞭であることも拍車をかけ、新時代のテロリズムの恐怖に全世界が騒然となった。
国内では未だ議論の絶えないこの事件を初映画化したのは、「現代オーストラリア最高の映画作家」と称される俊英ジャスティン・カーゼル。事件の〈真実〉に迫るため、映画は犯人の複雑なパーソナリティだけでなく、彼を取り巻く社会──家族、ローカルコミュニティ、医療、福祉、法制度、慣習──を多角的・重層的アングルからひとつずつ剥き出しにする。出来事に至るプロセスを緻密かつ繊細極まりない叙述で積み重ねてゆく、その真に倫理的な試みが高く評価され、豪アカデミー賞では主要8部門で最多受賞を果たした。
本作が描くのは、“ニトラム”と呼ばれた青年の〈生活〉と〈彷徨〉の日々。母は彼を「普通」の若者として人生を謳歌してほしいと願う一方、父は将来を案じ出来る限りのケアをしようと努めている。サーフィンに憧れている彼は、ボードを買うために庭の芝刈りの訪問営業を始める。そんなある日、ヘレンという女性と出会う……。
主人公を演じたのは、今ハリウッドで最も熱い視線を浴びる実力派スター、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。内面に巣食う孤独と劣等感、屈折した男性性を痛々しいまでのナイーブな演技で表現。カンヌ国際映画祭では7分間のスタンディングオベーションの賛嘆で迎え入れられ、見事主演男優賞を受賞した。
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1989年12月7日アメリカ・テキサス州ガーランド生まれ。2007年、コーエン兄弟監督『ノーカントリー』で俳優デビュー。12年ブランドン・クローネンバーグの初監督作品『アンチヴァイラル』で初主演を務め、カンヌ国際映画祭、トロント国際映画祭に出品され話題となる。マーティン・マクドナー監督『スリー・ビルボード』(17)、ジョーダン・ピール監督『ゲット・アウト』(17)、ジム・ジャームッシュ監督『デッド・ドント・ダイ』(19)、ロネ・シェルフィグ監督『ニューヨーク 親切なロシア料理店』(19)など名監督の話題作に次々と出演。最新作は、トム・ハンクスと共演したApple TV+の『フィンチ』(21)、レイフ・ファインズ、ジェシカ・チャンスティンらと共演したジョン・マイケル・マクドナー監督作「The Forgiven」(21)。2022年にはリュック・ベッソン監督「DogMan」を撮影予定。本作ではカンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得。ミュージシャンとしても活動中。
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1955年4月23日、オーストラリア・西オーストラリア州パース生まれ。77年にシドニーのオーストラリア国立演劇学院(NIDA)を卒業。79年、初主演となった『わが青春の輝き』で英国アカデミー賞主演女優賞、新人賞をダブル受賞。84年にはデビット・リーン監督の遺作『インドへの道』に主演、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、世界的な注目を集める。92年、ウッディ・アレン監督作『夫たち、妻たち』に出演し、ふたたびアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、全米映画批評家協会賞助演女優賞を受賞。その他出演作に、デヴィット・クローネンバーグ監督作『裸のランチ』(91)、ウッディ・アレン監督作『地球は女で回っている』(97)『セレブリティ』(98)『ローマでアモーレ』(12)、ソフィア・コッポラ監督作『マリー・アントワネット』(06)、ジャン・ピエール=ジュネ監督『天才スピヴェット』(13)など。
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1959年1月31日、オーストラリア・南オーストラリア州アデレード生まれ。米国移住後、舞台「A View from the Bridge」(98)でトニー賞、02年にNBSドラマ「そりゃないぜ!? フレイジャー」(93~04)でエミー賞を受賞。04年には、CBSドラマ「FBI 失踪者を追え!」(02~09)で、ゴールデングローブ主演男優賞(テレビシリーズ・ドラマ部門)を受賞している。14年、オーストラリア映画とエンターテイメント業界への多大なる国際的貢献が認められ、バージン・オーストラリア・オリー・ケリー・インターナショナル賞を受賞。その他、ジョエル・シュマッカー監督『依頼人』(94)、リヴ・タイラーと共演した『エンパイアレコード』(95)、ウッディ・アレン監督『ギター弾きの恋』(99)、スパイク・リー監督『サマー・オブ・サム』(99)ジュアン・チェン監督『オータム・イン・ニューヨーク』(00)、アイヒマン裁判を題材にした『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』(15)などに出演。『ニトラム/NITRAM』ではエグゼクティブプロデューサーとしても名を連ねる。
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1970年1月7日、オーストラリア・タスマニア州ハボート生まれ。オーストラリア国立演劇学院(NIDA)で学ぶ。02年、本作の監督ジャスティン・カーゼルと結婚。03年、舞台「欲望という名の電車」でローレンス・オリヴィエ賞助演女優賞を受賞。04年ブロードウェイの舞台「JUMPERS」でトニー賞にもノミネートされる。主演を務めたホラー映画『ババドック 暗闇の魔物』(14)は世界各国の映画祭で多くの賞を受賞。『ベイビーティース』(19)でオーストラリア・アカデミー賞助演女優賞を受賞するなど、世界各国の映画、演劇において多数の賞を獲得している。その他、出演作は『真珠の耳飾りの少女』(03)、『シャーロットのおくりもの』(06)『オーストラリア』(08)『アサシン クリード』(16)『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(19)など。
1974年8月3日、オーストラリア・南オーストラリア州ゴーラー生まれ。90年代にオーストラリア国立演劇学院(NIDA)で学んだあと舞台デザイナーとしても活躍。ヴィクトリアン・カレッジ・オブ・ジ・アーツの卒業制作として手掛けた短編映画"Blue Tongue"(05)が、カンヌ国際映画祭国際批評家週間に選出され、メルボルン国際映画祭で最優秀短編賞を受賞。11年には初の長編作品で、実際にオーストラリアで起きた猟奇殺人事件を題材にした『スノータウン』を監督。カンヌ国際映画祭批評家週間に再び選出され、大統領特別功労賞と批評家週間賞を受賞。トロント国際映画祭など15以上の国際映画祭で上映され、世界的な注目を浴びる。オーストラリア・アカデミー賞でも最優秀監督賞を受賞した。15年、シェイクスピア原作『マクベス』を映画化し、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出。16年にはハリウッドに進出、世界的大ヒットゲームを題材にした『アサシン クリード』を監督。『ニトラム/NITRAM』後は、AppleTVとパラマウント製作のミニドラマシリーズ「シャンタラム」のプロデューサーと監督(1話目)を務めている。次回作として、ベネディクト・カンバーバッチ、ローラ・ダーンらが出演する「Morning」、マーゴット・ロビーを主演に迎えた復讐劇「RUIN」が発表されている。
- 2005年 Blue Tongue (短編)
- 2006年 You Am I: Friends Like You (短編video)
- 2011年 スノータウン(未公開/DVD)
- 2013年 The Turning (オムニバス映画"Boner McPharlin's Moll"を担当)
- 2015年 マクベス
- 2016年 アサシン クリード
- 2019年 トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング
- 2020年 ニトラム/NITRAM
※順不同・敬称略
開始早々、これは危険だと思い、観るのをやめようとした。でも主人公の視点にがっちりと固定されて、もう身動きが取れなかった。この、映画に"捕まる"という感覚は初めてだったし、捕まって本当に良かった。
事件とは何か、社会とは何か、狂気とは何か、人間とは何か。
ニュース報道では絶対にわからない、映画でしか捉えられない「現実」がここにはある。
手渡されなければならなかったものを手渡されることのなかったひとつの家族。その息子と母親と父親のそれぞれの物語が、からみあい、ばらばらになってただここに落ちている。
花火の煙、草地、海と、それらの前でどうしようもなく息をしている主人公の小さくて大きな肉体を、私は忘れることができない。
監督のジャスティ・カーゼル は 「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」以上に大口径な写実を、主演の ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ は 「アンチヴァイラル」の時よりも破滅的な暴発感をもたらした!
ニトラムを無差別銃乱射事件へと駆り立てたものは何だったのか?この映画の”装填”が完璧であればある程、犯行の爆発は現実の銃社会に覆い隠されてしまう。
あらゆる愛情を踏みにじるこの男が、世界のどこかに実在していたと考えるだけで嫌になる。いったいどうすればよかったのか。答えはない。
実に過酷な映画体験だった。
ただ、絶望的な気持ちを抱えて生活する中で、愛される事と愛する事との感情が彼にとっての答えとして銃の乱射と結びける事には理解できませんでした。
ただケイレブ・ランドリー・ジョーンズ演じるニトラムの悲しい表情に僕の中にもある孤独が反応しました。
観客を選ぶ映画だが、僕は救われたような気がした。
この殺人犯は悪魔ではない。僕たちとはきっと些細な違いしかない。
それが現実だと思う。
理解できない事件を起こした犯人の母の思考は意外にも、理解できる。幸せになって欲しい、、こうなって欲しい、、。親は願う。ただ時にそれは、その子の今に100%満足と思っていないのと同義になるのかもしれない。
子供は未完だ。でも成長して100%に近づく存在でなく、未完の今も明日も既に100%のまま成長する存在だと肝に銘じようと思わされた。
とても力を持った映画だ。
『ニトラム』は謎の多いポートアーサー・マサカーの真相を解き明かすというよりは、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの、ひとりの人間の複雑で不可解な生がごろんとそこにあるかのような演技に象徴される通り、我々を惨劇へと至る過程にただただ立ち会わせる。
だからこそこの映画を観た者は、誰もが事件と無関係でいられなくなる。
最初の10分(いや5分か)で引き込まれる。 決して認められない結末だけれど、彼の気持ちが食い込む。
映画を見ている間、まるで催眠術にかけられているかのような気持ちだった。
エッシー・デイヴィス、ジュディ・デイヴィス、そしてケイレブ・ランドリー・ジョーンズの圧倒的な演技。
ジャスティン・カーゼル監督の見事なサスペンスの手腕に驚嘆した。 震えがやまないほどの後遺症を残す、非常にやっかいで、だからこそ重要な映画である。
とてつもなく不穏で、恐ろしいまでのリアリティ。銃乱射事件を描いた映画の最高の見本として記憶されるに違いない。 ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの、ルーズで奔放で野性的な身振りに宿る、途方もない繊細さに心を鷲掴みにされた。凄まじい傑作。
これほどまでに繊細なニュアンスと絶妙なグラデーションに富んだ殺人犯がかつて映画に存在したことがあっただろうか。
ジャスティン・カーゼル監督の新境地にして最高傑作。
『ニトラム』は、悪を生体解剖する。ここにその全てが描かれていると言っても過言ではない。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技が凄すぎる。賞をいくつ与えても足りないくらいだ。
この映画が大好きだ。とてつもないパワーを持っている。勇敢で、思慮深い、美しいリズムがある。次に何が起こるか予想もつかないスリルに何度頭を抱えたことか。見ている間ずっと、「これは当時私の背筋を凍らせた、実際にあった事件なんだ‥」と自分に語り続けなければなかった。俳優たち全員が本当に素晴らしい。ブラボー。
この主人公を形容する言葉が見つからない。しかし、映画の中で彼は確かに存在している。すごいことだ。