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「人は時々自分が見えなくなる」──スキー場で転倒してヒザに大けがを負った弁護士のトニー(エマニュエル・ベルコ)は、リハビリセンターの医師に“心”の話をされてポカンとする。しかし、ヒザの痛みは心の痛みと連動すると諭され、思い当たるあまりホロリと涙をこぼしてしまうのだった。

  あれは10年前、夜ふけ過ぎのクラブ。トニーは学生時代にバイトしていた店の常連客で、秘かに憧れていたジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)と再会する。いつも美女たちを引き連れていたレストラン経営者のジョルジオは、マジメな学生だったトニーのことなど全く覚えていなかった。だが、バツイチになり昔よりは大胆になったトニーは、機転の利いた印象的なアプローチでジョルジオの心をつかむ。

二人が恋におちてからの進展は早かった。なぜかジョルジオは、プロポーズより先に「君の子供が欲しい」と言い出した。想像以上に遊び人だったジョルジオの過去に不安を抱くトニーだが、「今は違う」という彼の言葉を信じたかった。

やがてトニーの妊娠が判明し、二人はトニーの弟のソラル(ルイ・ガレル)と彼の恋人のバベット(イジルド・ル・ベスコ)、ごく親しい数人の友達に見守られて、ささやかだけれど愛情に満ちた結婚式を挙げるのだった。

ところが結婚するや否や、次々と“事件”が巻き起こる。まずはジョルジオの昔の彼女のアニエス(クリステル・サン=ルイ・オーギュスタン)が自殺未遂をはかる。別れてからも彼を保護者のように頼るアニエスが、トニーの妊娠にショックを受けたのだ。責任を感じたジョルジオは、アニエスのもとへと通うようになる。逆上したトニーは、「彼女にはもう構わない」と約束するジョルジオを無視して家を出て行く。ソラルの家に逃げ込み冷静になったトニーはジョルジオに謝るが、開き直った彼から「彼女の世話は続ける」と宣言されてしまう。

トニーの激しい一面を知ったジョルジオは、「別の部屋を借りた」と報告する。最低限の荷物だけ持ち込み、ケンカした時に使うと言うのだが、トニーがその部屋を訪ねると、オシャレな家具から食器、高級なワインに至るまですべてが揃っていた。一方、トニーが一人残された部屋には、突然裁判所の執行官が訪ねてきて、ジョルジオの債務不履行のためとトニーの家族の思い出の家具まで持ち去ってしまう。

再び二人を引き寄せたのは、息子の誕生だった。だが、それも束の間、トニーの我慢の限界を超える出来事が起こる。裏切っては愛を誓い、逃げ出しては舞い戻り、嵐のようなジョルジオに身も心も引き裂かれるトニー。

あの頃の痛みとヒザの痛みが少しずつ回復していく中、トニーは遂に離婚したいと告げた日のことを振り返る──。